Writer: umehara 更新日:2025/06/06
こんにちは!東京オフィスでサービスプロデューサーを務めております、楳原です。
UI/UXの企画・デザインからシステム開発までを手がける私たちにとって、お客様のビジネス成長を支援することは、何よりのやりがいです。 しかし、どれほど優れたサービスやシステムであっても、それを支える社内業務が非効率であれば、その価値を最大限に発揮できない場面が少なくありません。
特に、目覚ましいスピードで成長を続けるスタートアップ企業では、次のようなお悩みをよく耳にします。
「事業の成長は嬉しいけれど、気づけば業務が属人化して、誰が何をしているのか見えにくい…」 「もっとクリエイティブな仕事やサービス開発に集中したいのに、日々の運用業務に追われてしまっている…」
今回は、そんな課題を抱えるスタートアップ企業のお客様をサポートした、私たちの取り組みをご紹介します。
なぜ「見える化」が停滞するのか?スタートアップが直面する本質的課題
先日サポートさせていただいたお客様も、まさに「見えない業務」に悩まされていました。なぜ業務は「見える化」できていなかったのか。そこには、多くのスタートアップ企業に共通する、いくつかの要因が複雑に絡み合っていたのです。
まず、スタートアップならではの圧倒的なスピード感です。事業が猛スピードで変化し続ける中で、業務を記録したり整理したりするよりも、「まずは動く」「試行錯誤を繰り返す」ことが優先される傾向にありました。これにより、業務の標準化や可視化への意識が後回しになってしまう印象を受けました。
また、常に直面するリソースの壁も大きな要因でした。限られた人材、時間、そして予算の中で、日々の業務を回すだけで手一杯。業務を「見える化」したり「標準化」したりするための"余力"を確保することは簡単ではありませんでした。
結果として、多くの業務が属人化し、標準化されていない状態に。特定の担当者しかその業務の内容や進め方を知らないため、万が一その人が不在になると業務が滞るリスクを常に抱えていたのです。
さらに、情報が各所に点在していたことも、見えにくさを助長していました。さまざまなツールを導入しているものの、それぞれが独立していてデータが連携されていない。あるいは、アナログな業務が多く、必要な情報がすぐに手に入らないという状況が一部で見受けられました。
そして、ルールやマニュアルの浸透に関しても、対応が求められる課題の一つでした。新しいルールやマニュアルを作成しても、その重要性や導入目的が社内で十分に共有されにくかったため、結果として全社に効果的に周知・定着しづらい側面があったのです。
これらの要因は、単独で存在するのではなく、複雑に絡み合いながら、お客様の業務を「流動的でありながら、見えにくい」状態にしていました。これは、多くのスタートアップ企業が成長の過程で経験する課題の一つと言えるでしょう。
業務改善の具体策:業務の「見える化」と「効率化」の実践
上記のような具体的な課題が明確になったところで、私たちはお客様のプロモーション・広報業務とそれに紐づく多くの業務を対象に、徹底的な業務標準化の取り組みを開始しました。ここでは、展示会に関する業務を事例として、その実践ステップと主要な内容をご紹介します。
1.業務の徹底的な「見える化」
まずは、業務の全体像を把握することから始めました。
●担当ごとの業務洗い出し: 展示会・講演に関わる全てのメンバーからヒアリングを行い、それぞれの担当業務を細かくリストアップ。
●業務フローの作成: 洗い出した業務を基に、誰が、いつ、何を、どのように行うのか、その流れを可視化しました。具体的には、「業務項目」「担当者」「確認・承認フロー」「必要資料」「資料の格納場所」といった情報を明記し、誰もが一目で理解できるように整理。
これにより、「誰が何をやっているのか分からない」という状態から脱却し、チーム全体で業務の全体像を共有できるようになりました。
2.潜在的な課題の抽出
業務フローを作成する過程で、これまで見過ごされてきた具体的な課題が浮き彫りになりました。
●業務の属人化・非標準化: 特定の個人にしか進め方が分からない業務や、メンバー間で手順が不明瞭な業務が多く存在。
●展示会実施判断基準の不足: スタートアップ企業であるお客様は、これまでの事業期間が比較的短く、過去の十分なデータが蓄積されていませんでした。そのため、展示会実施の判断において、客観的な数値に基づいた効果測定や予算配分の根拠が乏しい状況でした。
●多段階にわたる資料レビュー: 資料作成後の確認・承認プロセスが複雑で、何度も手戻りが発生し、スムーズに進まないケースも見受けられました。
これらの課題は、お客様の「効率化したい」という想いを阻む大きな壁となっていたのです。
3.具体的な「効率化」施策の提案と実行
抽出された課題に対し、私たちは具体的な効率化策を提案し、実行に移しました。
●展示会実施判断基準の作成: 過去の展示会データを分析し、実施レベルを数値化する判断材料を作成しました。これにより、勘や経験だけでなく、明確な根拠に基づいて展示会の参加を決定できるようになります。
●展示会ブースのパッケージ化: 展示会の規模や目的に応じて、ブースの内容(デザイン、設置機器、投影資料など)を複数パターンでパッケージ化しました。これにより、毎回ゼロから企画する手間が省け、準備期間を大幅に短縮できるようになります。
●展示会管理表(ツール化)の提案と今後の展望: お客様の業務負担をさらに軽減するため、多岐にわたる展示会関連情報を一元管理できる統合型ツールの導入を提案しました。
現状、お客様の環境では複数の管理ツール、その他各種スケジュールが混在し、うまく機能していないという課題が見受けられました。情報が分散しているために、全体の進捗が把握しづらく、連携ミスや手戻りが発生しやすい状況です。
この状況を解決し、今後スムーズに業務を進めるためには、「一元管理できるハブ」となるツールの導入が必要だと提案しました。WBSやガントチャート、タスク管理はもちろん、展示会開催中に行われる商談、講演、取材などの各種スケジュールに関しても、統合的に管理できるツールを導入することで、チーム全員がリアルタイムで進捗を把握し、必要な情報にすぐにアクセスできる環境を整備することをお勧めしました。これが実現すれば、情報探しの時間を大幅に削減し、タスク漏れも未然に防げるようになるでしょう。
4.業務ルール・マニュアルの作成と徹底
「見える化」した業務フローに基づき、新たなルールとマニュアルを作成しました。
●詳細な業務マニュアル: 各業務の手順、注意点、担当者、そして必要な資料や参考資料の格納場所を明確に紐付けたマニュアルの整備をしました。
●目的は「標準化と属人化の防止」: マニュアルの作成を通じて、誰が担当しても一定の品質で業務が進められるようにし、特定の個人に依存しない体制を築くことを目指しました。
5.AIツールによるさらなる分析と改善提案
そして、最終段階として、作成した業務フローと収集したデータを多角的に分析し、さらなる効率化の可能性を探るため、複数のAIツールに投入しました。
具体的には、ChatGPT(自然な対話・文章生成)、Copilot(Microsoft製品連携)、Gemini(マルチモーダルデータ処理)、そしてNotebookLM(提供資料に基づいた情報整理・要約・生成)といった異なる特性を持つツールを検討しました。それぞれのツールに対して、以下の問いかけを行い、その出力結果を比較検討しました。
この比較では、各ツールが業務フロー資料をどのように処理し、どのような提案や改善点を出力するかなど、業務効率化への貢献度を測りました。各ツールから異なる回答や示唆が得られた場合は、それらを新たな発見や改善案としてとらえ、元の資料の修正や業務フローの最適化に向かいました。また、複数のツールで同じ内容の回答が得られた場合は、作成した資料の正確性を裏付けることにも繋がり、実証効果が高められました。
1.「この業務フローに基づいて、想定されるFAQを抽出し、考えにまとめてください。」
ねらい:疑問点を事前に解消し、問い合わせ対応の手間を効率化できるか。
2.「この業務フローを、最も効率的な形に最適化するための具体的な改善策を提案してください。」
ねらい: AIならではの視点で、人間が見落としがちな非効率な部分を発見できるか。3.「この業務フローをベースに、新しいメンバーが迅速に業務に習熟できるような新人研修マニュアルの骨子をブラッシュアップしてください。」
ねらい: 新しいメンバーがスムーズに業務に習熟できる、分かりやすい教育資料が作成できるか。4.「これらの作成されたリソース(FAQ、最適化されたフロー、マニュアルなど)を活用することで、具体的にどのような効果が期待できますか?」
ねらい: AIが生成した成果物が、業務にどのような具体的な価値をもたらすかを明確化できるか。5.「この業務フローの中で、特に効率化のものが大きいボトルネックはどこにありますか?また、それに対する実践的な解決策を複数提案してください」
ねらい:課題の核心に特化し、多様な視点からの具体的な改善策を引き出せるか。
これらの深掘りした問いかけを通じて、各AIは人間では気づきにくい非効率なパターンや潜在的なリスクを検出しました。たとえば、特定タスクの最適化案、資料レビュープロセスの簡略化、さらには資料そのものの質や精度の向上に向けた具体的なアドバイスなど、多岐にわたる示唆が得られました。
こうしたAIによる分析結果を基に業務フローの最終調整を行うことで、業務標準化の質をさらに高める可能性があることが確認されました。
〈AIツール利用における注意点〉
AIツールへの入力データは、お客様の機密情報や特定情報が一切含まれないよう、全て伏字化し、弊社で作成した汎用的な情報に書き換えて投入しています。情報セキュリティとプライバシー保護は、業務効率化を進める上でも最優先事項です。
いかがでしたでしょうか。
この取り組みを通して、お客様は業務の透明性を高め、チーム全体の生産性向上を大きく前進させることができました。
もし貴社でも、業務の属人化や非効率に課題を感じている場合は、ぜひお気軽にご相談ください。